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第四回 21世紀統合医療フォーラム
フォーカシング  池見陽 (関西大学臨床心理専門職大学院教授)

 ワークショップスケジュール 
日時  5日 午前10時〜12時
会場         。 
定員  15名       
内容  フォーカシングの紹介

フォーカシング

フォーカシング (Focusing) は、人がうすうす感じている感覚に注意を向け、その感覚を言い表すことによって意味を見出していく過程です。「うすうす感じている」感覚はフェルトセンス (felt sense) と呼ばれ、それは感情とは異なった性質をもっています。感情は、それが「怒りである」とか、「緊張である」といったように、すでに明確化されており、概念形成されています。それに比べて、フェルトセンスは概念以前的で、すぐに、それが何であるのかが表現しにくく、しばしば〈からだ〉で感じられています。それは、たとえば、ある音楽の曲から感じられる独特の雰囲気や、詩の一行が心に沁みるような感覚などをいうのです。

日常的には、フェルトセンスは「胸の中がもやもやする感じ」や、「何かすっきりしない感じ」、「喉の奥に何か詰まった感じ」など、喉、胸部、腹部など〈からだの真ん中〉で感じられています。

フェルトセンスとその表現に最初に注目したのはアメリカの哲学者、ユージン・ジェンドリン博士(Eugene Gendlin 1926- )です。認識、行為、発話、記憶など、人の思考過程のあらゆる面において、フェルトセンスが機能していることをジェンドリンは初期の哲学書に示しました (Gendlin 1997)。ジェンドリン哲学については、近年アメリカ合衆国でも (Levine 1997)、 日本(諸富 2009)でも、著作が発行されてきているので、それらを参照してください。 

体験過程 (Experiencing)

フォーカシングを理解するためには、ジェンドリン哲学そのものよりも、心理的事象(psychological event) をとらえたジェンドリンの「人格変化の一理論 」(Gendlin, 1964) が参考になります。その論文の内容にそって、フォーカシングの理論的背景を示しましょう。

うすうす感じられているフェルトセンスは、明確にはなっていないが、何かを暗に指し示しています (implying)。また、それは内面的に感じられますが、実際には象徴、言語、社会、文化、環境、状況などと常に相互作用しています。たとえば、人と話した会話のやりとりが「噛み合っていない」と感じるとき、「何か伝わっていない感じ」がもやもやと〈からだ〉に感じられるでしょう。この「噛み合っていない感じ」は不安や心配といったはっきりした感情ではなく、もっと複雑な感覚です。また、何が伝わっていないのかが明確ではなくても、その複雑なフェルトセンスは何かの意味をもって存在しています。フェルトセンスに触れていると、突然、会話に欠けていたものに気がつくかもしれません。その瞬間、これまでもやもやしていた感じは、「あ、なるほど」とほっとした感じになり、会話も質的に変容していきます。すなわち、フェルトセンスが言い表された (explicate) とき、それは「内的」な変化ではなく、状況の変化をもたらすのです。会話の状況が変化すると、その会話から続く次の状況も変化するでしょう。

フェルトセンスが指し示しているものが明らかになると、フェルトセンスや状況の感じ方が変化するのです。これを推進 (carrying forward) といいます。上記の会話の例の場合、「あ、なるほど」と何かに気づいたことによって、会話が推進され、それによって状況が推進され、ひとときの生が推進されるのです。

フェルトセンスは言語、象徴、認知などによって言い表すことができます。心理療法家は表現のこの方向に注目することが多いのですが、実はこの関係は一方向ではありません。つまり、象徴や出来事も、人のフェルトセンスを呼び起こす、という方向があります。音楽の曲や詩の一行がフェルトセンスを呼び起こすのと同じように、会話の相手の言葉がフェルトセンスを呼び起こすことがあります。この呼ぶ起こす機能は再構成化 (reconstituting) と呼ばれています。人の体験は常に、感じられたフェルトセンスが再構成化されたり、言い表されて推進されたりしながら動いています。

人の体験(あるいは経験・意識)は推進されたり再構成化されたりしながら、プロセスとして動いています。体験は、たとえば「会話で感じた違和感」というように静止したものではなく、常に推進され再構成化される過程の一局面なのです。体験(経験・意識)は過程として動いているため、私たちは「体験過程 (experiencing) 」とそれを表現しています。

フォーカシング指向心理療法

心理療法に用いられるフォーカシングをフォーカシング指向心理療法(Focusing-Oriented Psychotherapy)といいます。体験過程療法 (Experiential Psychotherapy)と呼ばれていた時期もありましたが、1996年に「フォーカシング指向心理療法」(Gendlin, 1996)が発行されてからは、この名称に統一されてきました。フォーカシング指向心理療法は、一組の技法で成り立つものではなく、セラピストが用いている多様な心理療法の実践にフォーカシングを統合させたものです。フォーカシングはパーソン・センタード・アプローチ (Person-Centered Approach) の基本的な理論と実践として活用されており、クライエント中心療法 (Client-Centered Therapy) の発展系と位置づけられています (Ikemi, 2005など)。アートセラピーとフォーカシングを統合した「フォーカシング指向アートセラピー」 (Rappaport 2008)や「体験過程流コラージュワーク」 (Ikemi et al, 2007)、 ボディー・ワークと統合した「ホール・ボディ・フォーカシング」(マケベニュー&土井, 2004)、ブリーフセラピーと統合した「解決指向フォーカシング療法」(ジェイソン 2009)、その他、自律訓練法との組み合わせ (Ikemi 2006) やセラピスト自身がクライエントについてフォーカシングを行ってクライエント理解に役立てる「セラピスト・フォーカシング」(吉良2002)など多くの実践があります。また、近年の精神分析とフォーカシングには多くの共通点があることも指摘されています。

ジェンドリンの文献 (Gendlin, 1964, 1974) の中には精神病理的な体験の様式についての記述もありますが、これについては十分な研究がなされておらず、今後の研究が期待されるところです。

 

参考文献

Gendlin, E. (1997) Experiencing and the Creation of Meaning. Evanston, Northwestern University Press.

Gendlin, E. (1996) Focusing-Oriented Psychotherapy. New York, Guilford Press. (「フォーカシング指向心理療法 上下巻」(ジェンドリン、E.著、村瀬孝雄、池見 陽、日笠摩子 監訳)金剛出版 1998/1999

Gendlin, E. (1974) Experiential psychotherapy, in Corsini, R. (Ed.) Current Psychotherapies, Ithasca, F.E.Peacock. (ジェンドリン、E.著、「体験過程療法」池見 陽訳、『セラピープロセスの小さな一歩』金剛出版、1999.

Gendlin, E. (1964) A theory of personality change, in Worschel P., and Byrne, J., Personality Change, New York, John Wiley and Sons. (ジェンドリン、E.著、「人格変化の一理論」村瀬孝雄・池見 陽訳、『セラピープロセスの小さな一歩』金剛出版、1999.

Ikemi, A. (2005): Carl Rogers and Eugene Gendlin on the Bodily Felt Sense: What They Share and Where They Differ, Person-Centered & Experiential Psychotherapies, Vol4 (1): 31-42.

Ikemi, A. 2006: The psychological significance and extensions of autogenic training. In Kubo, C. & Kuboki, T. (Eds) Psychosomatic Medicine, Amsterdam, Elsevier.

Ikemi, A. Yano, K., Miyake, M., Matsuoka, S. (2007): Experiential Collage Work: Exploring Meaning in Collage from a Focusing-Oriented Perspective. Journal of Japanese Clinical Psychology 25(4):464-475

ジェイソン、B. 著、「解決指向フォーカシング療法」日笠摩子監訳、金剛出版、2009

Levine, D. (1997): Beyond Postmodernism: Saying and Thinking in Gendlins Philosophy. Evanston, Northwestern University Press.

吉良安之 (2002) 「フォーカシングを用いたセラピスト自身の体験の吟味:セラピスト・フォーカシング法の検討」心理臨床学研究2097-107.

マケベニュー&土井(2004): 「ホール・ボディ・フォーカシング」コスモス・ライブラリー。

諸富祥彦編著 (2009) 「フォーカシングの原点と臨床的展開」岩崎学術出版。

Rappaport, L. (2008) Focusing Oriented Arts Therapy, Jessica Kingsley Publisher, London. (ラパポート, L. 著、池見 陽・三宅麻希監訳 「フォーカシング指向アートセラピー」誠信書房2009

 



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